ダニエル・ゴールマン『SQ〜生き方の知能指数〜』を読み解く ②
あなたは今、映画館にいる。
スクリーンには、機関車が映し出されている。
あなたは、蒸気をもくもく出しながら、機関車が前方に向かってくるシーンを眺めている。
どのようにこのシーンを眺めるだろうか?
今度は、もしもあなたが映画というものをまだ知らない時に、このシーンをみたらどのようにこのシーンを眺めるかを想像してみてほしい。
時は、1895年、場所はパリ。
テレビもスマホもインターネットもYoutubeもない時だ。
あったのは、写真。
リュミエール兄弟は、その写真をつなぎ合わせて初めて、世の中に映画なるものを上映した。
上映時間は50秒間のサイレント映画だ。
あなたは、興味津々でこの史上初めてとなる上映会の映画館に向かった。
他の観客と共に暗がりでこれから始まる未知との遭遇をドキドキしながら待っている。
スクリーンに、機関車が映し出される。
あなたは、蒸気をもくもく出しながら、機関車が前方に向かってくるシーンを眺めている。
さあ、あなたは、スクリーンの機関車に対してどのように反応するだろうか?
ダニエル・ゴールマンの記述によれば、観客は恐怖のあまり絶叫し椅子の下に身を隠した、そうである。(※1)
観客は、動く機関車が単なる映像であると認識できず、本物の機関車が自分の方に迫ってくると思い、恐怖を感じたのである。
映画を知っている私たちには、滑稽にも思える話ではないだろうか。
なぜ、1895年のパリでは、このようなことが起こったのだろう。
なぜ、現代の私たちは、映画館の機関車に怯えることはないのだろう。
理由は、脳である。
私たちの脳は、実際の現実と仮想の現実をうまく区別できないのである。
とりわけ、経験をしたことがないことに対しては、今、見ているものが現実であると脳は認識してしまうのである。
現代の私たちは、これは映画である、とわかっているので、迫り来る機関車の映像を見たとしても怯えることはない。
ところが、映画を見たことがない人にとっては、今、目の前に迫り来る機関車が単なる映像であり仮想の現実だとしても、それが映画であると認識することができずに、本当に機関車が目の前に突然現れたのだと仮想の現実を実際の現実として認識してしまうのである。
仮想の現実が実際の現実になる瞬間である。
なぜ、脳はうまく仮想の現実と実際の現実を区別できないのだろう。
それには、脳には、2つのルートがあることを知る必要がある。
脳の「表の道」と「裏の道」である。
「表の道」というのは、注意深く慎重に考える制御的なルートだ。主に前頭前野や前帯状皮質と呼ばれるところが活躍する。
「裏の道」というのは、素早く判断し行動する情動的なルートだ。主に扁桃体と呼ばれるところが活躍する。
「表の道」は、意識的な行いで遅くゆったりと働き、計画を立てたり、予測したり、損得計算をしたり、熟考したりする認知システムである。ホモサピエンスの進化とともに、発達してきた後発的な脳のルートだと考えられている。
「裏の道」は、私たちの意識の外で超スピードで働き、常に身の危険がないかどうかを監視する自動システムである。ホモサピエンスが生きながらえたのは、この「裏の道」によるところが大きいと考えられている。
つまり、「表の道」は、認知と制御のルート、「裏の道」は、情動と自動のルートである。
私たちは、普段、この「表の道」と「裏の道」を巧妙にバランスを保ちながら、普段の生活や仕事をしている。
そして、実際の現実と仮想の現実を区別できている時には、「表の道」がちゃんと働いている状態だ。
もしも、「裏の道」が優勢になって「表の道」がうまく働かなくなってしまうと、実際の現実と仮想の現実の区別は曖昧になっていく。
実際の現実と仮想の現実の区別ができないのは、何も1895年のパリの映画館だけで起きているわけではない。
現代の私たちも、ホラー映画を見て恐怖を感じたり、感動的なストーリーに涙を流すのは、「裏の道」が優勢になり映画という仮想の現実の中に現実を見出している証拠である。
観客の誰かが咳払いをしたのに気づいて、自分が映画館にいることを思い出した時、「表の道」が正常に働き出す。
冒頭、機関車のシーンを思い浮かべた時に、「世界の車窓から?」「鬼滅の刃?」と思った方は、安心してほしい。
それはあなたの「表の道」が働いている証拠である。あなたは、実際の現実と仮想の現実をちゃんと区別できている。
ただ、それでも、時々私たちは、「表の道」と「裏の道」のバランスが崩れてしまい、脳が勝手に作り出すイメージに、実際の現実と仮想の現実の区別ができずに不安や恐怖に駆られることがある。それは、映画に限ったことではない。
「相手に嫌われてしまったらどうしよう」
「仕事で失敗したらどうしよう」
「コロナに感染したらどうしよう」
実際の現実と仮想の現実の混合は、仕事でも日常生活でも起こり得る。そのことを知っておくことはこの世の中を生きていく上では、大切なことである。
境界が曖昧になり、区別が難しいときは、自分に問いかけてみることをお勧めする。
「私の現実は実際の現実なのか?」
それとも
「自分が勝手に作り出した仮想の現実なのか?」
実は、この仮想の現実と実際の現実の区別をしっかりできるようにするのが、マインドフルネスの1つの効果でもある。実践を重ねていけば、その区別がうまくできるようになっていく。
さて、脳の話に戻そう。
実は、「裏の道」は、身の危険を察するだけではなく、相手の感情に共感したり同情したりする時にも働く。
そして、「表の道」は、自分や相手が抱いている感情について考えるときに働く。
また、相手を信用できるのか、もしくは信用できないのかを判断する時には「表の道」と「裏の道」の両方が働いている。
前回お伝えした、社会脳の役割の一部を果たしているのである。
つまり、「表の道」も「裏の道」も、Social Intelligence=社会的知性を磨くのに、欠かせない脳のルートなのである。
厳密には、脳の神経機能はこのように2つのルートに限定的に単純化することはできないのだが、社会的知性を感覚的に理解するためにダニエル・ゴールマンは、便宜上このような2つのモデルをあえて提示している。
そして、「表の道」はある程度の範囲内で「裏の道」を押さえ込むことができ、その能力が、人生における選択を可能にすると述べている。
さあ、社会的知性を学び、社会脳を鍛え、人生の選択をしていこう。
(※1)調べてみると「この映画は1896年に上映されたものである」とか、「世界最初に上映されたものは別のものである」など諸説あるようだが、この映画が動く映像に慣れていない人々を驚愕させたことは確かなことのようである。このコラムでは、原著に記載されている内容を流用した。
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